こんにちは。私の名はティール教授。当研究室へようこそ。今日も私の研究課題である家づくりについて話していきましょう。
「風通しが良い家=涼しい家」と昔はよく言われたものですが、年々夏の暑さが厳しくなる日本の家づくりは、風通しよりもエアコンの効きやすさを優先したほうが現実的です。しかし、エアコンの使用で体調を崩してしまう人もいますよね。エアコンの使用を控えた高齢者が熱中症で救急搬送されたというニュースも毎年のように目にします。
今回は、涼しい家の条件や冷房病を防ぐエアコンの上手な使い方などを詳しく伝えしますので、ぜひ家づくりの参考にしてくださいね。
昔の平屋の家には南にも北にも縁側があり、雨戸や障子を全開にすれば風がビューッと勢いよく通り抜ける構造で、まさに「涼しい家」でした。しかし、今の夏は気温40℃前後になる日が相次ぐ危険な暑さです。
気象庁によると、2024年7月の全国の平均気温は、平年と比べて2.16 ℃高く、統計を開始した1898年以降、過去最高となりました。また、2025年6月の全国の平均気温は平年よりも2.34℃高くなり、こちらも過去最高となりました。「たった2℃」と思われるかもしれませんが、人間の体温で考えると、36.5℃の平熱が2℃上がることは大変なことですよね。また、気温が上がれば飽和水蒸気量も増えるため、日本はますます高温多湿になっているのです。
さらに、現代の住宅地は地面がコンクリートやアスファルトで覆われ、日中にため込んだ熱が夜になっても放出されています。加えて、エアコンの使用により室外機からも熱が出ます。このように、住宅密集地では常に熱が放出され続けているため、夏は家に風を通すと涼しくなるどころか暑くなるのです。風通しの良さは、気温があまり高くない春や秋には快適さをもたらしますが、高温多湿の夏はエアコンに頼るのが正解です。
いまの日本の猛暑を涼しく過ごすためには、風通しよりも「エアコンがしっかりと効く家」であることが重要です。エアコンの効く家の条件は4つあります。
・断熱性が高い
・気密性が高い
・窓の性能が高い
・日射遮蔽(しゃへい)が適切にできている
とくに屋根は夏の強い日差しに一日中さらされて蓄熱しやすいため、熱が室内に伝わらないようにすることが大切です。また、南から大量に入ってくる日射への対策も重要です。すだれやサンシェードを活用すると、ガラスの表面温度が下がり、エアコンが効きやすくなります。
家の性能が低ければエアコンの効果を感じにくくなるうえに、電気代も余計にかかってしまいます。涼しい家にするために、まずは家の性能が十分かどうか確認しましょう。
快適というだけでなく、危険な暑さから命を守るために必要なエアコンですが、冷房による体調不良(冷房病)も避けたいですよね。そもそも、なぜ冷房で体調不良になるのでしょうか。
冷房病は、冷房により体が冷えて自律神経のバランスが乱れることで引き起こされる体調不良をいいます。人間の体は気候に順応するため、夏は暑さに耐えられるよう、毛細血管を拡張させて体内の熱を放出したり、汗をかいて体温を下げたりします。そんな夏の体で冷房の効いた部屋で長時間過ごしていると、体の熱が奪われすぎてしまうのです。
冷房病を予防するカギとなるのは「湿度」です。湿度が高くジメジメしている日と、湿度が低くカラッとしている日では、同じ気温でも不快の程度が全く違いますよね。湿度が高いと汗が蒸発しにくいため暑さを感じやすく、湿度が低いと汗が蒸発しやすいため涼しく感じやすいのです。つまり、湿度が低ければエアコンの設定温度を必要以上に低くしなくても快適に過ごせるということです。
「湿度」といっても、ここで大事なのは相対湿度ではなく、絶対湿度です。相対湿度は、天気予報などで聞かれる「湿度〇%」というように、空気中に含まれる水蒸気を割合で表したものです。対して、絶対湿度は割合ではなく重さ(g)で表します。飽和水蒸気量は気温によって異なるため、相対湿度が同じでも含まれる水蒸気量は違うのです。
【例】
・30℃/湿度50%の絶対湿度:約15g/m³
・15℃/湿度50%の絶対湿度:約6g/m³
5月や10月の快適な時期は絶対湿度が8~9g/m³、乾燥が気になる冬は7g/m³以下、高温多湿の夏は16g/m³を超えます。13g/m³以上になると除湿しないと暑く感じるため、11~12g/m³以下まで除湿すると快適に過ごせるでしょう。もっと除湿したほうがよいと思うかもしれませんが、体が夏に順応しているため少し高くても気になりません。3000円程度で購入できる絶対湿度計もあるので、興味のある人は探してみてくださいね。
エアコンの設定温度を必要以上に低くせず湿度を下げるためには、「エアコンを休ませないこと」がポイントです。そこで知っておきたいのが、以下の2点です。
カーテンを閉め切らない
もっと湿気をとってほしいのにエアコンが止まってしまうときがありますよね。これはエアコンが設定温度に達すると休止してしまうから。休止させないための対処法は、単純ですが「熱を入れること」です。エアコンのリターン開口(空気を吸うところ)に熱が入ってくると、エアコンは動き出します。エアコンがしっかりと動いていれば、1時間で1~2L程度の水を排出してくれます。
では、どのようにしてエアコンに熱を入れるかというと、窓からの太陽の熱を利用します。暑い日はカーテンを閉め切って冷房を効かせたくなりますが、除湿機能をしっかりと働かせるなら、カーテンを閉め切らずに「太陽の熱」を部屋に入れるようにしてください。今すぐ実践できる簡単な方法なので、ぜひ一度お試しください。
小さいエアコンのほうが除湿効果を発揮する場合も
「エアコンを休ませない」という点で考えると、サイズの小さいエアコンのほうがしっかりと働いてくれる場合があります。エアコンを購入するとき、部屋に対して大きめのエアコンを購入しようとした経験はありませんか?パワーが強いほうが効果的と考えてしまいがちですが、案外思うようにエアコンは働いてくれません。パワーが強いため、一気に室温を下げて止まってしまうのです。
一方で、8畳の部屋に6畳用の小さなエアコンをつけると、室温が下がるのに時間がかかるため、エアコンが動き続けてくれます。結果的に、小さいエアコンのほうが多くの湿気をとってくれるというわけです。
また、新しくエアコンを購入する予定がある人は、以下のようなエアコンも選択肢に入れてみてください。
・相対湿度を段階的に設定できるエアコン(設定温度に達しても、相対湿度が設定湿度に達していなければ休止しない)
・最熱除湿型のエアコン(除湿後の空気に熱を加えてカラッとさせる。冷え切った空気が出ないため、冷気が苦手な人におすすめ)
今の日本の夏を乗り切るために必要なのは、風通しの良い家ではなく、エアコンがしっかりと効く家です。体の冷えや電気代の上昇から、エアコンを使用せず扇風機に頼る人がいますが、扇風機は空気をかき混ぜているだけで、部屋の温度や湿度は下がりません。気化熱による涼感を一時的に得られても、体への負担は軽減できないのです。命を守るためにも、夏はエアコンを必ず使いましょう。
エアコンは少し使い方を工夫するだけで、冷房病を予防しやすくなります。湿度をコントロールして、夏を涼しく健康に過ごしてくださいね。