こんにちは。私の名はティール教授。当研究室へようこそ。今日も私の研究課題である家づくりについて話していきましょう。
「家を建てるなら断熱性にはこだわりたい!」そう思っている施主さまは多いはず。ところがこれが「気密性」の話になると、ぐっと関心が低くなってしまうのは残念です。
実は、快適な家作りには断熱と同じくらい気密性能も大切です。たとえば、分厚いダウンジャケットを着込んでいても、胸元が大きく空いていたら寒いですよね。
せっかく高断熱にこだわっていても、気密性が低い家では外から隙間風が入ってしまうため、断熱性能が落ちてしまうのです。
ところが「高気密は不要」「気密性はそこそこあればよい」と主張する業者が存在するのも事実。彼らがそう主張する根拠や、その真偽についても詳しくお話ししていきましょう。
家の気密性を高めるというのは、家を構成する材料すべてにおいて寸法誤差を極力抑えつつ、防湿気密シートやテープなどを使用して隙間なく施工していくこと。
高断熱とともに、家の気密性も高くすることがもたらすメリットは、大きくわけて3つあります。ひとつずつ詳しく解説しましょう。
高気密で隙間がない家というのは、外から意図せず風が入ってくるということが起こりません。空気を入れ替えるときは、窓や換気システムを使います。
そうすることによって、意図せず外から冬の寒さや夏の暑さが入り込むことを防ごうというのが、高気密住宅のひとつの意図。
逆に隙間風がピューピューと吹き込むような家では、 太陽の光やエアコン、床暖房などで、いくら快適な温度を作ってもどんどん熱が失われたり、加わったりしてしまいます。
快適な室内環境を極力ロスすることなくキープできる——だから高気密住宅は省エネルギーで快適な生活ができるのです。
住宅を高気密にすることのもうひとつの大きなメリットとして、結露を防止することが挙げられます。
家に関する冬の悩みといえば1、2を争うのが「結露」。窓の結露は目に見えますが、もっとやっかいなのが壁の内側で起こる「内部結露」です。
冬の外気は冷たく乾燥していますが、家の中の空気は温かく湿っているため、気密性が低い家ではこの2つの空気が壁の中でぶつかり、大量の結露が起こる危険性があるのです。
結露による水滴が木材や断熱材を濡らすことで、カビや断熱性能の低下を引き起こすだけでなく、木材を腐らせて、家の強度や耐久性が低下してしまうことも考えられます。
これを防ぐには、防湿層を隙間なく施工することが欠かせません。
防湿層というのは、室内側に施工する防湿気密シートのこと。温かく湿った家の中の空気が壁の中に入り込まないよう、ビニールシートをぴっちりと張り巡らせていきます。高気密住宅づくりのキモともなる施工プロセスです。
これにより、湿った空気が壁の内部に侵入することがなくなり、内部結露を防止することができるのです。
チリやホコリだけでなく花粉に黄砂、最近ではPM2.5など、現代の外気は想像以上に汚れています。隙間の少ない高気密な家では、換気口に高性能な外気フィルターを取り付けることにより、汚れた空気をきれいにしたうえで取り込むことができます。
一方隙間の多い家では、汚れた空気がそのまま入ってきてしまいます。計画的に空気の入れ替えを行うことができるのも、高気密住宅の大きなメリットのひとつです。
とはいえ、「日本の住宅に高気密は不要である」と考える住宅業者も多く存在します。その主張のもとになっている理論について、ひとつずつ詳しく検証していきましょう。
ビニールシートで覆われた部屋のなかで暮らす・・・想像してみると、何となく息苦しくなりそうだという気持ちは理解できます。ただ、実際には家には必ず「窓」があります。どんなに高気密な家でも、窓を適切に開放すれば一気に風が抜けていきます。また、窓を閉めた状態でも換気システムが作動するため、息苦しくなることはまったくありません。
むしろ隙間風が多い家よりも、換気システムによってきれいで新鮮な空気を取り込め、健康的であると言えるでしょう。
室内側に気密シートを張り巡らせてしまうと、木が呼吸できないという業者がいます。
正確に言えば、切り倒され木材となった木は「呼吸」しているわけではありません。ただし周囲の環境に応じて、湿気を吸収・放出して伸縮することはあるため、このことを言っているのだと思われます。
ただ四角い柱には4面あるため、1面は確かに防湿気密シートに密着しますが、残りの3面は十分に吸放湿を行うことが可能。木が呼吸できなくて窒息するといったロジックは、まったく意味のないものと考えられます。
「高気密住宅は空気が乾燥するからおすすめできません」という業者がいます。
確かに冬、高気密住宅の空気は乾燥しやすいです。まずは理科の授業で習った「同じ水分量を含む空気でも、温度が高ければ湿度は下がり、温度が低ければ湿度は上がる」という湿度の基本原理を思い出してください。
つまり高気密住宅では、冬の冷たく乾いた空気を換気システムで取り込み、家のなかで温めて温度を上げているため、必然的に湿度が下がってしまうということです。
正確に言うと「高気密だから乾燥する」のではなく、「家全体が温かいから乾燥する」のです。隙間風の多い家でも、エアコンなどを使って部屋を温めれば乾燥するのは同じこと。
ただ、気密性が低いと家の中に寒い場所と温かい場所ができるため、同じ水分量を含む空気でも、寒い場所なら湿度が高くなるということはあります。
同じ乾燥するなら、隙間風の吹き込む寒い家でエアコンと加湿器をフル稼働して生活するより、全館が均一に温かい家で湿度を補う工夫をして暮すほうが、はるかに快適なのは想像に難くありません。
セルロースファイバーなど、調湿性能を持つ断熱材を使用している工務店では、こうした主張をよく聞きます。
確かにセルロースファイバーには高い調湿効果があるのですが、結露の可能性が全くないわけではなく、湿った空気が供給され続ければ、やはり結露するリスクは残ります。また、湿気を大量に吸収した状態では、セルロースファイバーの断熱性能は低下することも分かっています。つまり悪条件が重なれば、本来の断熱性能を発揮できない可能性が。
調湿性能のある断熱材だとしても、やはりしっかりと気密をとっておけば、構造木材の腐敗を防いで住宅のロングライフ化も図れ、断熱性能の低下も防げます。調湿性能があるからといって、気密性を確保しない理由にはならないと言えるでしょう。
高気密住宅を建てるには、家を構成する数多くの部材を寸分違わぬ精度で組み上げ、一分の隙もなく防湿気密シートを張っていく作業を行わなくてはなりません。これを達成するには相当な労力と高い技術、加えて家作りへの情熱も必要です。
もしあなたが家づくりの依頼を検討している業者が「気密性能はそこそこにするべき」と主張するなら、その理由をじっくりと聞いてみてください。
納得できる合理的な答えが返ってこないならば、その主張は施工力への自信のなさの表れかも。逆に高気密住宅を建てられる会社は施工精度が高い会社だとも言えるので、施工会社を選ぶ際のひとつの基準になるでしょう。